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       月読
水晶の舟

蝶が
綺麗な蝶が
頬をかすめて行き過ぎる
どこか
羽根を休める
水辺を捜しているのかな

水面に揺れる小さな舟が 風に帆をなびかせてる

砂漠の片隅で静かに咲きながら
旅人や周辺に棲む人たちの喉を潤おす 水がある
大きなうねりの中で 何tもの岩石を
削り取りながら下流へと運んで行く 水がある
閉め忘れた蛇口からあふれて
目的もないまま排水溝へ流れ行く 水がある
身体の70%を形取りながら
感情という名前で人間を突き動かす 水がある

あなたの指をにぎれば
身体にはあたたかい血液が流れていて
トクン…トクン…トクン…って音をたてながら
生きてるんだよって 聴こえていたよ
確かに 聴こえていたよ
生きてるんだよって 聴こえていたよ ずっと

風が
優しい風が
まぶたをかすめて行き過ぎる
どこか
足を休める
水面を捜しているのかな

水辺に揺れる小さな舟を 蝶が静かに横切って行く

南極の厚い氷の下で ひっそりと横たわり
太古の記憶をずっと抱きしめて眠る 水がある
宇宙の片隅で この地球と同じように
風に吹かれながら 水面を揺らしている 水がある
12月の摩天楼に いくつもの魂を抱きしめながら
全てを赦して やわらかく降り注ぐ 水の結晶がある
それと同じかたちをして 中東の荒野に
朽ち果てた廃墟に降り注ぐ 水の結晶がある

やがて 僕たちは
いくつものコーナーを曲がりながら
あたたかい海へと この身体を還すだろう
愛情も 憎しみも 優しさも かなしさも
総て手放して あたたかい水へ還って行くだろう そっと

音楽が終わる前に
残しておかなくちゃいけないことがある
音楽が終わる前に
残しておかなくちゃいけないことがある
総てが終わってしまう前に
伝えておかなくちゃいけないことがある
届けておかなくちゃいけないことがある…きっと

あの蝶は
綺麗な蝶は
今度は誰の頬をかすめて行くのだろう
どこか
羽根を休める
水辺を捜しているのかな

水面に揺れる小さな舟が 風に帆をなびかせてる


music by Takuhiro Nakamura

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