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       音のない一葉
Nighthawk

街はいい顔しながら拒んでるよ
まだ熟してない果物みたいに
明治通り ひたすら歩きながら
ぶつかる個性の群れたちを見ていた
渋谷の裏通りの
渋谷の裏通りの
ヴィンテージ専門店の片隅で
毛皮だけに変わったイタチを見た
さわると懐かしい やわらかさがいた

冬のシベリアの森の中 かけまわる
まだ幼い兄弟と楽しそうにかけまわる
母親の夕ご飯 あるから急いで
小さな手足では家路は遠い
スープが冷める前に着きたいけど
きれいな月が出た 真冬の空
どこでも行けるような 気がした

ねぇ
今ではもう自由に駆け回らない
丸い瞳は何も映さない
スープは飲まない
寝息もたてることはない
残されたのは やわらかい肌触り
暖かい体温なくして
それでもまだ
飼い犬のように静かに眠ってる
北国ではエゾジカ 木の皮を食べ
厳しい冬のための準備をする

でも僕らは
洋服を着ることはやめないけど
動物の愛護とか叫ぶのもできないけど
ただその毛皮にさわって
渋谷の裏通りの
渋谷の裏通りの
ヴィンテージ専門店の片隅で
少し埃がかったラックに置かれた
やわらかい毛皮の身体にさわって
薬をのまされて
薬をのまされて
かなしい悲鳴をあげて
息絶えた
やわらかい毛皮の身体にさわって
やわらかい毛皮の身体にさわって

街はいい顔しながら拒んでるよ
まだ熟してない果物みたいに
明治通り うつむき歩きながら
ぶつかる個性の群れたちを見ていた
そっと見あげた 空は 透きとおるくらい
悲しくなるくらい
きれいな青だった

きれいな青だった


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